目を伏せて、溜め息を吐いた。

わたしは一体、何をしているんだろう。



───戻ろう。


そう思って、足を踏み出した。

だけどそのとき、ふと、何かを思って、その足を階段へ続く扉へではなく、その扉の丁度裏側にある場所へと向けた。


そこには、扉の上へのぼるための梯子が付いている。

わたしは何を考えるでもなく、そこをゆっくりとのぼっていった。


何もない、遮るものすらない、狭く広い空間だ。

空が、少しだけ近く感じる。


わたしは梯子をのぼりきり、あの日に朗がいたその場所へ立った。

そして、そこにあったあるものに気付く。


鈍い鉛色をした、B4サイズの平たい缶だ。


普通なら、誰かが置いていったゴミだろうと気にもかけないけれど、今、わたしはそれから、目を離すことができなかった。

その缶の蓋に、黒いマジックで、こう書かれていたからだ。



“夏海へ”