後ろに下がって振り返った。

わたしがいるここよりも少し高くなった、階段へ続く扉の上を見上げる。



あの日、朗がいた場所。


今日よりも、もっとずっと暑い日だった。

だけどきみのまわりだけは、晴れた冬の日のように透明で、どこまでも澄んでいるように感じた。



あの日の景色が、心をくすぐる。

きみの声が、耳元で響く。



『夏海』



今もまだ、きみがわたしを呼んでくれる気がして、どこかできみの声を探しているんだ。


だけど、聞こえない。


きみはもういないから。



どこにも、いないから。