朗はわたしの手を握ったまま、ずんずんと静けさの漂う校舎の中を進んでいく。
相変わらず人気はなくて、わたしたちのシューズが、ペタペタと廊下を踏む音しか聞こえない。
「ね、ねえ!」
わたしは必死で朗の後を追いながら、華奢な背中に呼びかけた。
朗が、こっちを振り向かないまま「なんだ」と答える。
「海に行くって言ったけど、どうやって行く気なの?」
海に行く、言うのは簡単だけれど、実際に行くとなると話は別だ。
例えばここが海辺の町なら問題はないのだろうけれど。
生憎、わたしたちが住んでいるこの場所は、山と田んぼだけは豊富な内陸の町。
海なんて、簡単に行ける場所じゃない。
のに。
「さあ」
涼しげに問い返す朗に、わたしは溜め息すら吐けない。