朗が、腕の力を僅かに緩めた。

少しだけ離れるわたしたちの距離。


だけど、鼻の先が触れ合ってしまいそうなほど近くに、きみはいる。



「忘れられるわけないだろう」


朗は両手でわたしの頬を包み込むと、そのままくしゃっと髪を撫でた。

少しだけ苦しそうに、だけどとても優しく、笑って。



「夏海が俺を忘れても、俺がずっと覚えてる。だからお前は、これからも笑って、生きていけばいい」



朗の声は不思議なくらいすんなりと、わたしの中に入ってくる。

まるでそれが、元々わたしのものだったように。


だけどわたしはそれを否定する。

無駄なのはわかってても、どうしても、認めたくなくて。


「朗がいなきゃやだ。笑えない。一緒にいてよ」


ぽたぽたと、わたしの涙が朗の綺麗な頬に落ちた。

まるで朗が泣いているみたいだ。

でも、泣いているのは、わたし。