朗が、両手をわたしの背中に伸ばした。
そしてそのままわたしを引き寄せ、ぎゅっと自分の胸に抱き締める。
「……朗?」
反射的に抵抗しようとしても、腕の力は緩められない。
わたしの体が、朗の華奢な体に覆い被さって、ふたりの心臓が、重なって響いた。
「忘れないよ、死んだくらいで、夏海のことを忘れたりしない」
耳元で聞こえる朗の声。
わたしの右胸で鳴る、わたしのじゃない心臓。
確かな、生きている、証。
「当たり前だろう。だって、海が遠いのも、夏が暑いのも……誰かを求めるのも、抱き合う温かさも。教えてくれたのは、夏海だ。
何も知らなかった俺に、夏海が全部、教えてくれたんだ」