「夏海」
朗が、わたしの名前を呼ぶ。
顔を上げると、すぐ近くに朗の姿があって、それはさっきから知ってるしずっと見ているはずなのに、少し驚いた。
黒目勝ちの瞳も、すっきりとした小さめの鼻も、薄い唇も。
そのすべてが、綺麗過ぎて。
「俺は、死ぬのは怖くなかった。だってみんな、いつかは死ぬものだろう。
いつ死ぬかわからないのなんて、みんな同じ。俺より元気な人が、俺より早く事故で死ぬことだってきっと当たり前にあって。
死ぬのは遅いか早いかで、それを決められるのは自分じゃないから、いつ訪れるかもわからない。
言ってしまえば誰だって、常に終わりに直面しているんだ。別に俺だけじゃない。誰だって、それは同じ。
でも、俺は、そのみんなとは、少しだけ違うところがあって。それだけが、心残りで。
そう、このまま、何も知らないまま死んでしまうのだけは、少し悲しいなって、思ってたんだ」
朗の手が、ゆっくりとわたしの頬に触れる。
雪のように冷たい手だ。
それでも、触れられた場所に集まるわたしの熱を、冷ましてはくれない。
「でも、変だな。いろんなことを知れた今になって、少しだけ、死ぬのが怖いよ」