長い睫毛を伏せ、波の音にかき消されそうな声で呟くから。
「いいよ。だって、わたしは朗が一緒にいてくれるだけで充分だから」
わたしたちは出会ったばかりで、きっと互いが知っていることよりも、知らないことの方がずっとずっと多いんだ。
だけど、確かに知っていることもあって。
こうやって隣にいられることが、嬉しくて、大切だから。
それだけでいい、それ以上はいらない。
今、きみが、わたしの視界の中にいればいい。
朗は小さく笑いながら、海に視線を戻した。
「小さい頃から学校にも行かせてもらえなかった。父さんが、将来のためにって、金を出してなんとか高校には入れてくれたけど。それも籍を置いていただけで、結局1日だって行けてない。
本当は2年生の歳なのに、俺はまだ、1年生のままだ」