夕暮れ時の海辺は思った以上に涼しくて、冷房の効いた部屋の中よりよっぽど快適だった。


潮の香り、波の音。

独特の空気が、体中を包み込む。


海は、夕日のオレンジと、空の青を映し出していた。

どんな画家でも描きだせないような、心が止まってしまうくらいに美しいグラデーションだ。



わたしたちは防波堤の上に立ったまま、じっと海の彼方を見つめていた。


なんでだろう、海に来ると、無性に懐かしい気分になる。

変なの、わたしは生まれたのも育ったのも、海なんて欠片も見えない内陸の街なのに。

それでもこんな気持ちになるのは、生き物はみんな海から生まれたっていう大昔の出来事の名残だろうか。

記憶にはなくても、遺伝子とかそんなものが、自分の故郷を覚えているのかもしれない。