足はペダルに乗せているだけでよかった。
それでもわたしはペダルを踏んだ。
今までで一番速く風を切り、細く長い下り坂を下っていく。
速く回りすぎて、車輪が壊れてしまうんじゃないかと思った。
でもブレーキは掛けない。
そんな必要も、ついでに言えば余裕もない。
転んだっていい、自転車が壊れたっていい。
もしも転んだら、きみだけは助けて、もしも壊れたら、きみの手を取って連れて行けばいいだけだから。
伸びた長い髪は後ろに流れ、それを避けるように朗がわたしの肩に頬を寄せる。
落ちないように、冷たい腕をお腹に回し、風船のように膨らむわたしの薄いブラウスを胸で潰した。
地平線に目を凝らす。
赤い太陽に照らされて、オレンジに染まる空の中で。
突然現れる、深い深い、青の色。
「朗、海だよ!」
そしてより一層強く、ペダルを踏んだ。