「まあなあ、確かにおかしいだろうけど。でも、一応生きてるから安心しろ」
「そうだよね。ごめん、変なこと言って」
「別にいいけど。でも、幽霊だなんて言われたのは初めてだ」
朗は言って、また声を上げて笑った。
わたしは恥ずかしくなって俯きながらも、こそりとその姿を見遣る。
真夏なのに分厚いカーディガンを羽織って、それでも涼しげな表情をして、触れた手は驚くほど冷たい。
普通じゃないのは明らかだ、おかしいのは、一目瞭然。
そこに何か、理由があるには違いないのだろうけど。
それが、気にならないと言えば、嘘になるけど。
だけど彼が言わないのなら、それを訊く権利はわたしにはない。
誰にだって、抱えているもののひとつやふたつ、必ずある。
それは、ひとには言いたくはないことでもあるのかもしれない。
彼がわたしに何も訊かないのと同じように、わたしも何も、訊く必要はない。