「遅いぞ、夏海」


この暑い季節には似つかわしくない分厚いカーディガンを着て、少し癖のある長い黒髪を風に揺らして。

きみはゆるりと笑って、わたしを呼ぶ。



「……朗」



少し手前で自転車を止めた。

足を地面に着け、いまだ視線を離せないでいるわたしに、朗はゆっくりと向かってくる。

そしてわたしの前で立ち止まると、小さく微笑んで、そっと頬に手を寄せた。



「待ってた」



呟く彼の手は冷たい。

そう、まるで雪のように、冷たい手だ。


でも、確かに、温もりがある。



「……うん。迎えに来たよ」