「その自転車もだいぶ汚れたな」


ふいにお父さんが呟いたのは、最後の仕上げにフレームを磨いていたときだった。

振り返ると、お父さんはあぐらを掻いた自分の膝に頬杖を付いて、じっとわたしの赤い自転車を見つめていた。


「いつから使ってた?」

「えっと、中1のときからかなあ……」

「そうか……毎日乗ってるしなあ。掃除するくらいなら、新しいのを買ってやろうか」


お父さんがわたしに目を向ける。

わたしはしばらく考えたあと、なんとなく笑って、答えた。


「ううん、いいよ。まだ乗れるから」


ぽんぽんと軽くサドルを叩く。


そう、この自転車は、まだまだ前へ進める。