小さく笑うお父さんに、わたしは、ああそうだったんだと、改めて気付く。


わたしのことなんて見てくれていないと思っていた。

愛していないって、消えたって何も思わないって。


だけど本当はいつだって、わたしのことだけを考えていてくれたんだ。

見ていないのはわたしの方だった。


お父さんはいつだって、わたしのことだけを。

不器用な愛情で、包んでくれていたのに。



「……ありがと」


口の中で呟くと、お父さんは楽しげに笑った。

なんだか無性に気恥かしくなって、ぐるりとお父さんに背を向けて。

そして何かを誤魔化すように、自転車の掃除を再開した。



わたしはお父さんの方を向かない、だけどお父さんは、その場を離れない。


蝉の声が、近くで聴こえた。


まだまだ夏は、続いている。