朗はわたしに向き直ると、そのまま真っ直ぐに視線を向けた。

その表情に少しだけ心臓が跳ねて、さっきまでと違うおかしな鼓動が胸で鳴る。


朗が、微かに目を細め、握っていた手にきゅっと力を込めた。



「お願いだ、夏海。行きたいところがあるんだ。そこに、付き合ってくれるだけでいい」


祈るように、そう言って。

もしかして、遠まわしにわたしの自殺を止めようとしているのかとも思ったけれど、やっぱり違う。

この人は本当に、わたしに、お願いをしているんだ。


ただ共に、行こうと。



汗ばむわたしの掌とは反対に、握られた彼の手は、雪のように冷たいままだ。

まだ体が、少し痛い、だけどそれも、忘れていた。


見上げた空は、青い。



「……うん」


わたしは、彼の瞳から視線を外せないまま、そう呟いていた。

朗が、真夏の太陽みたいに笑う。


「ありがとう、夏海」