お父さんの横顔から目を逸らして、膝の上に置かれた両手を見つめる。
家を出る前よりも、少し日に焼けた、小さな手。
「……わたしのほうこそ、ごめん。怒ってるでしょ、警察のお世話になんかなって、こんな時間に、迎えに来させて」
震えそうになる声をどうにか抑えて問い掛けた。
おかげで小さな小さな声だったけど、ラジオも掛かっていない静かな車内には、それくらいがちょうどよかった。
「いいんだ、別に。悪いことをしたわけじゃないって、警察の方が言っていたから」
お父さんが答える。
わたしはもう一度顔を上げて、そっとお父さんの顔を窺った。
そのときに、ふと、そういえばこうやって話すのは随分久しぶりのことだと気付いて。
思えば、こんな風にお互いの顔を見合うことすら、いつ以来かわからなかった。
お父さんが、一瞬だけわたしに目を向ける。
そして、よく見なければわからないくらいに、だけど確かに、微笑んだ。
「夏海は、自分のしたいことをしただけなんだろう。なら、いいんだ」