この時間だからか、すれ違う車は少なかった。
ラジオを掛けることもなく、車内はエンジン音だけが響いている。
静かだった。
夜の闇が、光だけじゃなく音まで包み込んでしまっているような、そんな気がした。
その中で、突然お父さんが口を開いたのは、車を1時間ほど走らせた後のことだった。
「悪かったな」
不意のその一言に、わたしは驚きを隠せないまま振り向く。
お父さんはじっとフロントガラスを見つめたまま、静かに言葉を続けた。
「夏休みだから、友達のところにでも泊りに行っているんだと思ってたんだ」
昨日の夜、鳴ることのなかった携帯を思い出す。
ひとつの連絡もしてこないのは、きっと無関心だからだって。
わたしが消えたって心配しない、それどころか居ないことに気付きもしていないんじゃないかって、そう思っていたけれど、もしかしたらお父さんなりに、少しは気に掛けていてくれたりしたんだろうか。
そんなことわたしは、思いもよらなかったんだけど。