「……どうして」


唇の小さな隙間から、自然とそんな言葉が漏れていた。


どうして、ここにいるんだろう。


来るのは明日だって聞いていたし。

そもそも、わたしのためにここまで来るなんて思いもしなかった。


仕事があったはずなのに、時間なんてないはずなのに。

忙しくて疲れているはずなのに。


それなのに、なんで……



「呼ばれたんだ、当たり前だろう」


僅かに眉をひそめ、低い声で呟いたお父さんは、そのまますっと、わたしに向かい手を伸ばした。

迫って来る手に、わたしは何を考えるでもなく、反射的に体を強張らせ目を瞑る。


だけど、そんなわたしに与えられたのは。

頭の上に置かれる、温かな手の感触。


「帰るぞ、夏海」