時計の針が、きりの良い時間を指したところだった。

朗の父親が静かに腰を上げて、わたしを見ないまま「あなたと話が出来てよかった」と一言呟いた。


「あの」


そのままドアノブに手を掛けようとする背中を咄嗟に呼び止める。

ゆっくりと上半身だけ振り向いた朗の父親に、呑み込んでしまいそうになる言葉を、どうにか吐きだした。


「……わたしのこと、恨んでますか?」



もしかしたら、わたしと一緒にいたせいで、朗は今日、死んでいたかもしれない。

わたしと出会わなければ、今よりもっと長く、生きていられたかもしれない。


どういう形であれ、父親である彼が朗のことを愛しているのは確かで。

その大切な子どもを、わたしが殺してしまうかもしれなかったんだ。


わたしがあのとき感じた恐怖と同じものを、朗の父親は、わたしよりもずっとずっと長い間、感じ続けていたんだろう。

わたしさえいなければ、それはまた少し、和らいでいたかもしれないものだ。