「あなたは朗のためにと思って、ずっと彼を閉じ込めてきたのかもしれないけれど、朗は、そんなことを望んでいたんじゃないんです」
きっと、ずっとずっと、外にも出られず何も出来ず、たったひとりで長い時間を過ごしてきたのだろう。
朗が、驚くほど何も知らなかった、その理由がそこにある。
だけど本当は、いろんなことを知りたかったんだ。
海の遠さ、夏の暑さ、アイスクリームの美味しさ、世界の美しさ。
今を生きる、その幸せ。
この世界には、彼の知らないものがたくさんたくさんあるから。
そのほんの一握りだけでもいいから、知りたかった。
今、ここにある命で。
呼吸をして、脈を打って、体温の廻るその体で。
朗は、この瞬間を、なによりも大切に生きていたかったんだ。
誰のためでもない。
自分自身のために。