「……体のことは、あの子が一番よくわかっているはずなのに、どうして……」
朗の父親は僅かに語尾を強め、項垂れる。
なぜ、どうして。
そんなことばかりが心を覆って。
大切にしてきた自分の子どもの不可解な行動の理由がわからないと、唇を噛む。
「……」
わたしは一度、ゆっくりと瞬きをした。
一瞬の暗闇の中、浮かび上がってきたのは。
楽しそうに笑う、柔らかな表情だった。
「生きたいからですよ」
自然と零れた言葉だった。
考えたわけじゃない、考えてもわからない。
考えなくても、わかる答え。
「朗は、生きていたいから、たったひとりで、外に出たんです」