「もう、あの子の体には限界が来ている。数日前から意識障害や呼吸循環障害を繰り返していて、いつ心臓が止まってもおかしくない状態なんだ。
今あの子の体は、まるで人形のように冷たい。本当ならもう、まともに生きていられるような体温じゃないんだよ」
朗の父親は溜め息混じりに呟いて、軽く首を振った。
そして再び瞼を閉じる。
「わたしはもう、あの子に会社を継がせようなんて思っていない。それはとうに諦めている。
だけど、悲しいほどに短いあの子の人生を、少しでも長く続けさせてあげようと、そう思っているのに……なぜ……」
そのあとは言葉にならなかったけれど、言葉になんてしなくたって、十分にわかっていた。
なんで朗は、こんなことをしたのか。
限られた命は、けれど長く伸ばすことは出来る。
誰もがそれを、彼に与えようとしているなかで。
なんで朗は、いつ死んでもおかしくないような体で、誰にも言わず、ひとり、遠い海を目指そうとしたのか。