「私は会社を経営しているんだけど、それをいつか自分の子どもに後を継がせるのが夢だったんだ。
あの子は、朗は、なかなか子どもが出来なかった私たち夫婦に唯一出来た息子で、あの子が生まれる前から、いつかは会社を譲ろうと決めていた。
なのに……はたちまで生きられないと言われて……」
そのときは本当に気が狂いそうだったと、朗の父親は続けた。
口元だけでうっすらと微笑んで、だけど、苦しくて悲しい表情で。
「だから、何としてでも治そうと思い、様々な病院や研究機関を使って、治療法を探し続けていたんだ。
学校にも行かせず、最先端の医療技術が集まる場所で、何年も掛けて様々な方法で治療を試みた。
幸い金ならあったから、糸目はつけず、出来ることは全てやったよ。
だけど結局、有効な治療法は見つからないまま……もう、ただ体温が消えていくのを待つしかなくなってしまった」
朗の父親は言葉を吐き出して、うっすらと瞼を開けた。
わたしの方を向きながら、でもわたしを見てはいない、虚ろな瞳だった。