「昨日?」

「はい。昨日、学校で初めて会いました。それまでは彼のことなんて一切知らなかったんです」

「そうか……なるほど」


朗の父親は自分の中で確認するように何度か頷き、顎を掻いた。

そしてもう一度、じっとわたしを見据える。


「なら、あの子のことは何も知らないんだね?」


まるで射るような視線に、逃げてしまいたくなりそうだった。

見透かされるというよりは、近付くことを許さない、そんな視線だ。


だけど決して、その瞳から、目を逸らすことはしなかった。


逸らしてはいけない気がした。

だって逸らしてしまったら、二度と、きみに会えない気がして。


きっと、知らなければいけない真実が、そこにあるから。



知らなくてもよかったけれど、知らなければいけない、わたしの知らないきみのこと。




「……朗は、病気なんですか」


わかってはいた、朗が普通ではないことに。


だけど訊かなかった。

朗が言わないのなら、知る必要はないって思っていた。


思っていたけど、それでも──……