───小さな個室だった。
元々応接用の部屋なのだろうか、中には長方形のテーブルがひとつと、それを挟むようにソファが置いてある。
そのソファの片側に、その人は座っていた。
年齢は40代か50代くらいだろうか、丁寧に整えられた髪には所々白髪が混ざっている。
皺ひとつないスーツを身に纏った、品の良さそうな男性だ。
会ったことは、おそらくない。
「この子が竹谷夏海ちゃんです」
後藤さんがわたしを紹介すると、男性はゆっくりと腰を上げ、わたしに向かい頭を下げた。
それに軽く会釈を返しながら、感じている疑問の答えを求めるように後藤さんを見上げる。
後藤さんはわたしに軽く頷くと、右手で男性を示しながら、その答えを口にした。
「夏海ちゃん、こちらは、藤原朗くんの、お父さんだよ」