「……ご家族の方に連絡したら、お仕事があるから迎えに来るのは遅くなるって」


後藤さんが、労わるようにゆっくりとした口調でそう告げた。

できるだけ優しくと、接してくれているのがわかるけれど。

でもわたしは、それに応えることができなくて。

俯いたまま、ただ手元のアイスティーだけを見つめていた。



迎えになんて、来なくていい。


わたしはそんなことをしてほしいわけじゃない。

戻りたいわけじゃない、帰りたいわけじゃない。


だって、迎えが来たってどうしたらいい。

そのあとわたしはどうしたらいいの。


またあの場所へ、戻っていくだけ?


死のうと決めた、あの場所へ。



そんな場所に戻って、一体なんの意味があるの。

そんな場所で何をしたらいいの。


そんなところに行ったって、またひとりで、自分で自分を抱きしめるように。

生きていかなきゃいけないだけでしょう。



わたしは、いやだ。



朗がいないのに、傍にいないのに。



帰る意味なんて、どこにもないよ。