ふいに、近くで車のエンジン音が聞こえた。
徐々に大きくなるそれは、けれどわたしたちの側で音を止める。
ハッとして顔を上げると、目の前に1台のパトカーが停まっているのに気付いた。
そこから降りてこちらにやって来る、ふたりの警察官。
「あ……」
よかった。
朗を助けてもらえる。
消えてしまわないで済む。
これでまた、きっと、わたしに向かって笑ってくれる。
「あの……」
朗の体を抱き締めたまま、わたしは震える喉から必死で声を絞り出そうとした。
だけど、わたしの前に立ちはだかった彼らは、わたしの言葉を聞くことはなくて。
ただ、わたしに向かい、思いもかけない言葉を口にしたんだ。
「彼は、藤原、朗くんだね」