こてんと、朗が背中に額を寄せて、両腕をわたしの腰に回した。

手首の先までカーディガンで覆った朗の細い腕が、ぎゅっとわたしのお腹のあたりを掴まえていた。


ドクンと心臓が鳴って、頬に熱が溜まるのを感じる。

触れる朗の腕は真夏の空気よりもずっとずっと冷たいのに、触れられた場所は灼けるように熱い。

響く鼓動が、まるで外から鳴ってるみたいに大きく聞こえる。

確かに、わたしの胸で、鳴っているのに。


ぐっと足に力を入れて、慌ててペダルを踏んで誤魔化した。

誰に対して何を誤魔化しているのか、それはよくわからないけれど。



「夏海」


朗がわたしを呼ぶ。

こんなに近くにいるのに、朗はよくわたしの名前を呼ぶ。


確かめるように、誰かを、自分を。

ここにいるんだと、いつだって傍にいたんだと。

確かめるように、名前を呼んで。


そしてわたしはそれを聴く。

その声で響く自分の名前が、とても心地良く感じるから。