ペダルが少し重くなる。
なだらかな上り坂になったみたいだ。
わたしの記憶が正しければ、確か、ここを上って高台にでた場所から一気に下れば、海に続いたはずだ。
「じゃあさ、海に着いたらなにしようか」
わたしは強くペダルを踏む。
上り坂はきついけれど、昨日通ったあの山道を考えれば、これくらい楽勝だ。
「そうだな……ふつうなら、何をする?」
「ふつうなら……うーん……泳いだり、花火したり?」
だけど、夜だったら泳ぐのは危ないし、お金がないから花火も買えない。
スイカ割りもビーチバレーも、何にも何にもできないんだ。
そう、海に行ったって、海らしいことは何ひとつしてあげられない。
何ひとつ、きみにしてあげられないから。
「じゃあ……なにもしないでいようか」
それは、背中の後ろからのひとつの提案だった。
驚いて短く声をあげると、朗は小さく笑って。
「なにもしないでいい。ただ海を見て、暗くなったら浜辺に寝て、星でも見よう」
俺はそれだけでいい、そう呟く。