「ねえ、朗」
「ん?」
「海に行ったら何をするの」
考えていなかったけれど、意外と肝心なところじゃないだろうか。
行くだけ行って何をするか、分からなければ何もできない。
だけど、訊ねたわたしに帰ってきた声は、「あ」の一言で。
運転しているから振り向くことはしないけれど、そうじゃなかったら完璧に振り向いていた感じの「あ」だ。
「え、なに、どうしたの」
「考えてなかった」
「は?」
「なにしようか、考えてなかった」
どうしよう、と本気で困ってるみたいに言うもんだから。
わたしは呆れつつも笑うことしかできないわけで。
「こんなに海に行きたがってるのに、なにするかは決めてなかったんだ」
「だって、とりあえず行くことだけしか考えてなかったから」
「あはは、なにそれ」
まあ確かに、それがきみらしいと言えばきみらしい。