「ねえ、朗」
呼ぶと、「ん」と短い返事が返って来る。
わたしは、草が風に吹かれる音だけが響く静かな道の上、一層強くペダルを踏んだ。
「海が見たいなら、いつでも連れてってあげる。
一度なんかじゃなくて、何度でも見せてあげるよ」
少し、遠いってだけ。
頑張れば、自転車ふたり乗りでだってどうにか行けてしまえる距離。
海は逃げたりしない。
いつだってどんなときだって、暑くたって寒くたって、そこにいてくれるから。
真夏も、真冬も、虹が架かっても星が降っても、いつでも。
「一緒に行こう。今だけじゃなく、いつだって、一緒に行こう」
ああ、わたしは一体何を言っているんだろう。
馬鹿じゃないのか、もしくは阿呆だ。
だって、それって、つまり。
まだ、これから先も、生きようとしているってことでしょう。