あのとき、わたしが朗と出会ったあのとき。
屋上に出たわたしよりも高い場所にいた朗は、きっとひとりで空を見ていたんだ。
雲なんてひとつもなかった。
頭の上に広がる空は、たったひとつの色をしていた。
どこまでも広がる晴天を、切実な願いを胸に秘めて、ただきみは、見つめていたんだろう。
だって、空は青いから。
海と同じで青いから。
見上げた空に海を想って、朗は、あそこにいたんだ。
「見たかった、一度でいいから、どうしても」
願うように、祈るように、朗は言う。
その願いを、今まで誰が、聞いていたんだろう。
その願いを、彼が今まで、誰に届けていたんだろう。
そんなこと、わかるわけないけれど。
この瞬間、彼の声を聞いているのは、わたしだけだ。