夏の風が吹いた。

何かを孕んだような、青い匂いのする風だ。


それに乗って、ひらりと飛んだ1枚の楠の葉の向こうで。



きみは、わたしを、見ていた。





『お前の命、俺にくれない?』



聞こえたその言葉が、どういう意味か、なんて考える余裕すらなかった。


呼吸すら忘れて、涼しく微笑む姿を見つめていて。


だけど、混乱すら出来ない頭の中で、でも確かに少年がそう言ったのだけは理解していて、そしてそれを、わたしに言ったんだということもわかっていて。

わかっていたから余計、何もかもが、わからなくなっていたんだけど。



「あ……」


とりあえず何かを言い返そうとしても、言葉が見つからなかった。


少年は、口をぽかんと開けて立ちすくむわたしを見て、小さく微笑む。

そしてわたしを手招きするように、ちょいちょいと右手を縦に振るから。

わたしはまるで引っ張られるように、無意識に彼の元へ歩み寄って。