ばっと手を離し、勢いよく立ち上がる。

階段を駆け下りて参道に立ち、深く呼吸をすると、ようやく少しだけ、心臓が落ち着いてきた。

だけどやっぱりまだ、どこかがふわふわとおかしな感じがする。

それに、絶対、気付かれたくはないけれど。



「朗」


名前だけを呼んで、振り向いた。

朗は境内に座りながら、相変わらず涼しそうに温い風を受けている。


「もう行くよ。お腹もいっぱいになったし」


少し早口でわたしは言う。


「ああ、そうだな」


朗が答えて立ち上がる。

それと同時にざあっと風が吹いて、朗の長い黒髪がゆらりと揺れた。


「行こうか、夏海」



そしてゆるりと笑う瞳を、まっすぐには見つめられないまま、でも確かにきみの隣を歩いて、わたしは再び鳥居をくぐった。


目指すのは、あの空のように、青い、海だ。