ゆっくりと、朗の体がわたしから離れた。
朗は両手でわたしの頬を包み込むと、目を細めて小さく笑い、親指で涙の跡を拭った。
「夏海」
こんなに近くにいるのに、朗がわたしを呼ぶから、わたしは「なに」と嗄れた声で返事をする。
冷たい手が、火照った頬を冷やす。
朗の真っ黒な瞳が、わたしを見ていて。
でもその黒は、わたしがずっと見ていたような暗闇じゃなくて。
穏やかに世界を包み込む、星空と同じ、やさしい透明な黒。
「誰かに愛してほしいなら、俺がお前を愛してやる」
真っ直ぐに、少しも逸らすことなく、わたしを見つめて。
朗は、いつもと同じ涼しげな声色で、わたしに言う。
当たり前のように言葉を失くすわたしを見て、少しだけ目を細めながら笑って。
「それがお前の、生きる理由にはならないかな」
きみは、全てを捨てたわたしに。
そう、言うんだ。