そう考えた途端、ひどく悲しくなった。


誰からも愛されないで、たったひとりで生きていくことが、どれほど辛いことなのか。

そのときのわたしには、痛いくらいにわかっていた。


だって、愛されることを知ってしまっていたから。

それがどれだけしあわせか、それを失うことがどれだけ苦しいのか。



失うくらいなら、もう最初から、何もいらなかった。

なにもかもなくなってしまえばいいと、ただそれだけを願った。



「いらなかったの、なにもかも。誰かとの繋がりも、自分の命も」



くだらない理由だってわかっていた。

失ったのなら、また見つければいいだけ。


なのにそれがわたしとっては何よりも困難なことで。

その困難に、どうしても耐えることができなかった。



遠い日の母の背中が。

わたしを見ない父の瞳が。

トオルの、真夏の太陽のような笑顔が。


たったそれだけのことが、わたしの中のすべてであって。

たったそれだけのことが、いつだって、わたしの中心を苦しいくらいに、締め付けるんだ。