「さすがに失恋したくらいで死のうなんて思わないよ。だけど、だけどね、トオルと別れたことで、わかったんだ」


トオルと一緒に過ごしたことで、それまでずっと知らなかったことをわたしは知った。


誰かが側に居てくれること、感じる温もり、優しさ。

誰かを愛することの、しあわせ。


それまで知らなかった想いのすべてを、トオルと過ごした日々が教えてくれた。


だけどやっぱりそれは、永遠に続くものではなくて。

どれだけ大事に抱えていても、結局は、わたしはそれを失くしてしまった。



いつか大切なものが消えるのが怖くて、誰かを好きになれなかった。

だけど嫌いだったそんな自分を、変えることができたから。

大切な人ができたから。

この想いを、いつまでも、抱きしめていようと思っていた。


でも、できなかった。


あの日母が、わたしの前から消えてしまったように。

わたしが得たものは、この手のひらから零れてしまって。

父がわたしを見ないように。


わたしはきっと、いつまでだって、ひとりきりで、生きていくんだ。