───ひとつ強い風が吹いて、緑がざわざわと音を立てた。

まるで空気をまるごと揺らすような、大きなざわめきだった。


指に付いたご飯粒をぺろりと舐めると、いつか流した涙と、同じ味がした。


空の上の飛行機雲は、いつの間にか消えていた。

分けられたように見えていた空は、当たり前だけど、ひとつだった。


どこまでも広がって、どこまでも繋がって。

きっと誰の上にも、分け隔てなく昇ってくれるその青い青い透明な空は。

けれどわたしには、いつまでも、淀んだ景色にしか見えない。



「……夏海が死のうとしてたのは、そのトオルが、理由だったのか?」


それは、今までわたし自身について訊くことをしなかった朗の、初めての問い掛けだった。

わたしは小さく首を横に振る。


「……ううん。確かにきっかけは、そうだったのかもしれない。でも、それだけじゃない」


手のひらを見つめる。

小さな手。


何も掴めない、手だ。