「……なら、早くどこかに消えてくれませんか。そこに居られると気が散るから」


踵を返し、少年に背を向けた。

長い髪が視界を流れて、そのうちゆっくりと落ちて消えた。


再び目の前に、何もない空間が広がる。



ここから一歩、足を踏み出すだけ。


たったそれだけのことで、ひとつ呼吸をする暇もなく、わたしはこの世から消えてしまう。



自分で自分の命を消してしまうのは、悲しいことだって分かっている。


だけど、それでも構わないんだ。


悲しみも、苦しみも、全部全部抱きしめて、そのまま消してしまえばいいんだから。




「なあ」


何度目かの、声が聞こえる。

だけどわたしは、もう、振り向かなかった。