携帯をポケットに戻して、小さく息を吐いた。
汗ばんだ手のひらが気持ち悪くて、スカートをぎゅっと握り締めた。
顔を上げると、真上を走る飛行機雲が見えた。
空をふたつに分ける、境界線みたいだった。
「まあ、正確に言えば、元、なんだけど」
「もと?」
「うん、2週間前に別れたから」
包みを開いたまま放っていたおにぎりをひとつ、手に取った。
少し温くなってはいたけれど、特に気になるほどじゃない。
齧ると、少しだけ塩辛い味が口の中に広がった。
懐かしい味だった。
「……ねえ朗」
「ん?」
「どうでもいい話なんだけど、少しだけしてもいい?」
「ああ、聞くよ」
「うん……ありがと」
息を吸い込むと、夏の匂いがした。
「わたしと、トオルのこと」
そうだ、トオルと付き合い始めたあの日も、今日のように、蒸し暑い日だったっけ。
「……2年付き合ってたの。友達の紹介で、最初は付き合う気なんてなかったんだけど、でも……」
笑った顔が、とても似合う人だった。
まるで真夏に咲くひまわりのような、そんな人───



