朗が、窺うようにわたしに視線を戻した。
それと同時に、鳴り響いていた電子音がプツンと途切れた。
しんと静まり返る空間。
風が吹いて、それが木の葉を揺らす音だけが聞こえていて。
「……誰だったんだ?」
その静かな中を、朗の声が通っていく。
わたしは、ひとつ深い呼吸をしながら、もう何も映っていないディスプレイを見つめていた。
暗い画面。
真っ暗で、何も浮かばないその場所は、まるでわたしが見ていた世界みたいだ。
そこに灯った光も、そして、それが消えたことも。
全部、まるで、今までわたしが見ていた世界、そのものみたいで。
「……トオル」
掠れた声はぎこちなくて。
もう何度も何度も呼んできた名前だけど、でも、もう二度と、呼ぶことなんてないと思っていた名前でもあるから。
思い出すことも、こうして、泣けないくらいに、苦しくなることも。
もうないと、思っていたのに。
「わたしの、彼氏」
なんで今さら、あなたを、思い出さなくちゃいけないんだろう。



