それなのに。


死んだってかまわないのに、死のうと決めたはずなのに。


何もかもがいらなかったはずなのに。


すべてを、捨てたはずなのに。



わたしはなんで、今、ここにいるんだろう。




「……そうか。夏海も、同じことを思ってたんだな」


朗が、わたしの隣で空を見上げる。


細められたその瞳を見て、そうか、と気付く。


そうか、わたしがなんで、ここにいるのかって。

そんなこと、決まってる。

それは、全部。


わたしが捨てたはずのものを、わたしごと拾ってしまった、きみのため。



泣いている顔じゃない、今度は本当に笑っている、きみのためなんだ。



「俺と一緒か」



何も変わらない、変わっていない。

それでも今、わたしが生きているのは、きみが隣にいるから。



「朗……」


唇の隙間から洩れた、その小さな声。


ただひとつのその名前。



だけど、それは、夏の空気に溶けて消える前に、脳の奥まで響く電子音に、かき消された。