「……わたしも同じことを思ったよ」
白くて透明な、綺麗な横顔を見つめていた。
泣きそうで、だけど泣かないその横顔に。
なぜだかわたしが泣きそうになった。
「……夏海も?」
「うん」
静かな動作で、朗がわたしに振り向いて。
髪の色と同じ濃い色の瞳の中に、ゆらゆらと、わたしの姿が映った。
「ここは別の場所だって。そうだったらよかったって。
だけどそんなことなくて、やっぱり何も変わってなくて。簡単には何も、変わってくれないって……そう思ってた」
震える声は、きっと涙を堪えているせいじゃない。
だってもうそんなものに、揺らされるような心じゃない。
意識すらしないうちに、頭の中を掠めていく、いろんな想い。
忘れたことすら忘れるくらいに、奥深くに沈めていた想い。
もう二度と感じないように、心を痛めたりしないように。
記憶より深く、意識より遠くに、置いてきたはずの、想いだ。
そうだ、この想い。
それが全部、嫌だった。
いらなかった、捨てたかった。
何もかも、そう、自分の命すら、わたしにはもう、いらなかった。



