朗はわたしを見ないまま、でもわたしに何かを伝えようとしていた。
こちらを向かない瞳の代わりに、じっとその横顔を見ていると。
なぜだか今にも、まるで雪みたいに、透き通って消えてしまいそうな、そんな気がした。
「……今までいた場所とは、似ているけど違う。
風も草も音も空も、俺たちも。違う場所に、来たんじゃないかって」
静かに風が吹いた。
神社の外よりも涼しく感じる、だけどやっぱり生温い、いつもと同じ風だ。
「……変だよな、何も変わってなんかいないのに。何も、変わらないのに」
朗が、微かに口元を緩め、小さく笑った。
だけどその表情はまるで、泣いているみたいに、わたしには見えた。
変わらない。
変わってくれない。
わたしたちが見る現実は、決して夢を、見させてはくれない。
辛くて、苦しくて、なくなってほしくて。
見たくないものから目を背けても、それだけじゃ何も、変わらないし、簡単には、終わってもくれない。