「……おにぎり食べよっか」


近くで、電車が通る音が聞こえた。

線路を駆け抜けていくそれを耳の奥で聞きながら、わたしは膝に置いていた包みを開けた。



───なんて、馬鹿なこと。


馬鹿なことってわかっているのに、それでも願ってしまう救いようのない事実。

どれほど願っても、それはただの錯覚で、気のせいで。


そして現実は、いつまでだって、ただ現実でしかないんだ。



何も変わらない、変えられない、そんなことは当たり前。

わかっているんだ、当然だから。

知っている、気付いている、理解している、何も変えられない。


なのに。

何度も言い聞かせても、心のどこかで願うことをやめられないのはどうしてなんだろう。


どれだけ絶望したって、いつだってどこかで、わたしは何かを願っているんだ。


醜く縋りついて、そんな自分が嫌で、だけどやっぱり、わたしは───



「夏海」


葉擦れの音の中、それと聞き間違えるような声で、朗がわたしを呼んだ。

そっと目を向けると、朗はわたしではない、どこか遠くを見つめているようだった。


「……俺は今、ここを別の世界みたいだと思った」