少年は、唇を結んだまましばらくわたしを見ていたけれど、やがて、晴れた日に吹く風のように、ゆるりと柔らかく微笑んだ。
「止めやしないよ」
そして、薄い唇を小さく動かして、なんとも涼しげに、そう囁くから。
あまりにも、意外だったその答えに。
驚くとまではいかなくても、わたしは一瞬呆気にとられてしまった。
止めてほしいわけではない。
止めないでよ、と彼に言ったのは本心だ。
けれど、この状況で止めない人間がいるのかと、そう思うのも本心だった。
少年はわたしの気持ちに気付いたのか、あるいはそうでないのかもしれないが、さらに言葉を続けた。
「お前の命はお前のもんだ。それをどう扱おうが、口を出す権利俺にはない」
大きな瞳を瞬かせて、そしてそのまま、微かに細めて。
静かな空間に、蝉の合唱と、彼の澄んだ声だけが響き渡る。