「ばあちゃん、ありがとう。助かったよ」

「本当にお世話になりました」


店の表に並んだわたしと朗は、揃っておばあさんに頭を下げた。


空は少しずつ明るくなっているけれど、まだ日も昇っていない時間だ。

でも、今日中に海に着くためには、もう出発しなければいけない。



「ええ。気をつけて行きなさいよ。ちゃんとお茶飲んでね」

「はい」


自転車の前かごには、お茶の入った2本のペットボトルと、いくつかのおにぎりが入っている。

何も持っていないわたしたちにせめてと、おばあさんが用意してくれたものだ。


「朗くんと夏海ちゃんのこと、ここで応援してるからね」

「はい、本当にありがとうございました」


わたしはもう一度、深く頭を下げた。

何も恩返しができないことが苦しいけれど、それでもこの時と、この気持ちだけは、何があっても忘れないようにと、願いながら。