寄せた額からは、朗の心臓の音が伝わっていた。

静かな、でも確かな鼓動。

きみの胸の奥で鳴る音。


ゆるゆると、冷たい掌がわたしの頭を撫でる。


「お前は死のうとしてたくせに、人が死ぬかもしれないときには泣くんだな」

「……当たり前じゃん。何言ってんの」


朗から体を離して顔を上げると、濃い色の瞳と目が合った。

そこに映った自分の姿と、正反対の表情をしているこいつに、なんだかとても腹が立って、でも、それ以上に。


「……お礼なんて言わなくていいから、もう二度と、心配掛けさせないで」


恐かった、何が起きているかわからなかった。

本当に、朗が死んでしまうんじゃないかと思った。

あのままどんどん冷たくなって、もう二度と、目を覚まさないんじゃないかって。


自分の死には何も思わないのに、今目の前にいるこの人がいなくなってしまうことは、耐えきれないほどに、恐ろしかったんだ。



滲む視界の中で、朗が微かに微笑むのがわかった。


「……優しいな、夏海は」


朗は、わたしの言葉に答えることはせず、ただそれだけ、呟いた。