耳元で聴こえる小さな囁き。

首筋に掛かる、微かな冷たい吐息。


「朗?」

「……」

「朗、なに? まだ寒い?」


必死で呼びかけながら朗の白い顔を覗いた。

長い睫毛の奥にある瞳は、閉じられたまま、開くことはなくて。


だけど、ほんの小さく。


震えの止まった薄い唇が、そっと、微笑むのがわかった。



「あったかい」



声にならない声で、でも確かに、聞こえた声。

胸元は、深く安定した呼吸に合わせてゆっくりと動いて。

そしてもう一度、ゆっくりと、わたしの背中に腕が回された。



「……うん、朗、あったかいでしょ。もう、寒くないからね」


わたしは全身で、朗を抱きしめた。