名前を呼ばれたからじゃない。
――なんで。
そう思いながら声のする方向に顔を向けた。向けなくても誰の声か何て私には分かっているけれど。
少し先の曲がり角から姿を出した修弥が、私を見て珍しそうな顔をしている。
なんで――…いるの?
「お前今日遅いんじゃねえ?しかもたらたら歩いて…遅刻すんぞ?」
「え、あ、うん」
声がうまく出ない。
なんでこんな日に限って会うんだろう。このまま会わずに済ましたかったのに。
なんでこんな時に…
そのまま歩いて行く修弥の姿を、ただ後ろから見つめた。
「…なにしてんの?置いてくぞ?」
動かない私を振り返って修弥が私に呼びかける。
――先に行ってて
なんて言えるはずもない。修弥のことだから色々聞いてくるだろうし、それに対して返事を出来るほど今の私は頭が回ってない。
「あ、うん…」
少し脚を止めた修弥に、引き寄せられるように脚を進ませた。