9月になった。
忘れない、9月の真ん中の週の金曜日。


あたしはバイトの面接に行って家に帰ってきた。

お母さんが居間で夕刊を読んでいた。
ちょっと難しい顔をしている。

「ただいま」

あたしの声にお母さんは「おかえり」と言って、新聞から目を離さない。

あたしがソファに座るとようやく新聞から目を離した。


「何?」

あたしが聞くと、ちょっとためらっってから言った。

「あんたの友達、中学校の時の。ヒロくんって子いなかった?」

「ヒロ?ヒロがどうかしたの?」

あたしの方へ夕刊を置いて、「落ち着いて読みなさい」と言った。



あたしは怪訝に思いながら新聞を見た。

あまり大きくない記事でこう書いてあった。

『20歳男性、単独事故で死亡』

雨でスリップして電柱に激突。車から放り出された男性は病院でまもなく死亡。

その死亡した男性の名前は・・・・ヒロ。


「ちょっと・・・、ウソでしょ?何これ」

お母さんを見た。
その途端、涙がボロボロ出た。

「誰かに確認しなさい」

お母さんはそう言って、電話機の子機を渡してきた。


あたしは何度も押し間違えながらもユキに電話をかけた。

「もしもし?あ、うらら?元気?」

ユキの陽気な声を聞いて、これはただの同姓同名の人じゃないかって思う。

「あの・・・あのね、ユキ。確認して欲しいんだけど・・・」

つっかえながらあたしは新聞記事を読んだ。

ユキは最初は驚いていたけど、深刻な声になって「確認するから」と言った。

「ねぇユキ!」

電話を切ろうとするユキに言った。

「ヒロ・・・、生きてるよね?」

「とにかく確認するから、あんたはあたしが電話するまで待ってて」

ユキは慌しく電話を切った。